低雑音増幅器(LNA)の部品選定 ~LNAの選定指標は?~
株式会社Wave Technology 第一技術部システム設計課の濱出です。
無線の受信特性に影響する重要部品の一つであるLNA(Low Noise Amplifier)について、”どのような指標で部品選定をしたらいいのかを教えて欲しい”とお客様からご要望をお伺いすることがあります。そこで、今回はLNAの選定基準について、お話をさせていただきます。
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多くの方はLNAの選定指標として、データシートの電気的特性から以下の3項目を主として選定されるかと思います。
- Gain(利得)
- NF(Noise Figure:雑音指数)
- 消費電流
LNAの場合は上記の他に以下のような受信特性に大きく影響する指標もあります。
- IP3(3rd order Intercept Point)
- P1dB(Input or Output Power @1dB Gain Compression)
また、近年では外部に調整回路が必要なLNAだけでなく、調整回路が不要なMMICも多く開発されています。
このように多くの選択肢があると、何に着眼して部品選定すべきかが難しくなってきます。選定する指標は、設計者の好み(メーカー、使い易さ、過去生産実績のある部品)もありますが、私が選定する場合の指標について順に説明します。
(1) 省電力の要求を考慮したデバイスの選定
省電力設計のご要求次第で、選定部品の回路の考え方が大きく変わります。省電力のご要求がなければ、基本的に回路調整が不要なMMICを選定します。
表1に示すMMICのメリットから、設計(整合回路の設計)作業と評価作業の時間を多く削減でき、量産時においても特性が安定するためです。
表1 消費電流有無によりLNAの選定
省電力のご要求がある場合は、回路シミュレーションを実施するため、Sパラメータを入手できるデバイスを選定します。
(2) NF、P1dBに着眼して選定
(1)項で選定部品の構造が決まれば、低NF品を調査します。NFが大きい場合には、Gain、IP3特性が良いデバイスであっても受信品質が低下するため、選定対象外となるからです。
P1dBは、可能な限り高いデバイスを選定します。P1dBが低い場合、妨害波でLNAが飽和してしまい、本来の性能を維持できない恐れがあります。
(3) Gain、IP3に着眼して選定
IP3特性とは、受信部の規格で、受信IM特性(Inter-modulation)と呼ばれる規格に関連します。
受信IMとは、2波の妨害波が入力された場合でも受信できることの規格です。図1のイメージ図のように、2波の妨害波が入力されるとLNA内部で信号増幅される際に、信号が歪むことで不要なIM3(3rd Inter-modulation)が発生します。
図1 2波の妨害波を入力時のIM3発生イメージ図
次に、IP3特性について説明します。
IP3とは図2に示すとおり、入出力特性がリニアに変動すると仮定した時の出力電力(Pout)の延長線(1倍の係数)と、IM3の電力がリニアに変動すると仮定した延長線(3倍の係数)の交点をいいます。
これらの関係から、IM3はレベルが小さいほど良く、IM3から算出されるIP3は可能な限り特性が良い(IIP3、OIP3共に大きい方が良い)部品を選定します。
図2 Pin vs. Pout、IM3のイメージ図
また、GainもこのIP3特性と関係があります。
同じ出力電力、IM3の電力が同じ特性であることが前提ですが、図3のとおり、Gainが大きいとIIP3が小さくなることが分かります。このことから、受信IM特性も悪くなります。
一方、Gainが小さい場合には所望の出力電力を得られない、及び後段デバイスのNFの影響が大きくなるなどの懸念が生じます。
LNAの部品選定では、この関係が一番悩ましい点ですので、受信部のレベルダイアを計算しながら検討します。
図3 Gain大時のIP3特性のイメージ図
以上の内容をまとめると、LNAの選定基準は以下のとおりです。
- 設計、評価の作業時間を削減するため、可能な限りMMICを選定する。ただし、トランジスタに比べて高価である場合が多く、量産コストに影響するため、コスト重視ではトランジスタを選定する。
- NFは低く、P1dBは可能な限り大きいものを選定する。
- Gainはレベルダイアから適切に選択し、IP3は大きいものを選択する。
LNAの部品選定指標について、お話をさせて頂きましたが、当社では、高周波関連のエンジニアが多数在籍しております。LNAに関わらず、高周波部品の部品選定や回路設計(回路シミュレーションを含む)、調整評価まで実施しておりますので、ご要望があれば、お問い合わせください。
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